双子にまつわる不思議な話のひとつに、**「双子だけが理解できる言葉を話す」**という現象があります。まるで他人には解読できない“秘密の言語”で会話しているかのような様子に、親も周囲の人も驚くことがあるでしょう。
この現象には実は名前がついていて、それが「**クリプトファジア(Cryptophasia)」と呼ばれるものです。
本記事では、このクリプトファジアの意味や特徴、科学的な見解、そして実際の体験談や親としての対応方法などを紹介していきます。
クリプトファジアとは?
「クリプトファジア(Cryptophasia)」とは、
ギリシャ語で「秘密(crypto)」と「話す(phasia)」を意味する言葉です。
一卵性・二卵性を問わず、**幼少期の双子の間で見られる“他者には理解できない言語”**による会話を指します。
この現象は、双子だけでなく三つ子などの多胎児のあいだで特に多く見られ、約40%の双子に現れるとされています。
例えば、
- 意味不明な言葉のやりとりをしている
- お互いにジェスチャーや表情で通じ合っている
- 親が聞いても「何それ?」と首をかしげるような音のやりとりをしている
というような場面が観察されます。
なぜ“秘密の言葉”が生まれるの?
クリプトファジアが起こる背景には、双子という特別な関係性と言語発達の過程が関係していると考えられています。
以下に、主な理由を紹介します。
① 密接な関係性
双子は、胎児期から常に一緒に過ごしているため、非常に強い絆や同調性を持っています。生まれた後も常に一緒にいることが多いため、言葉を覚える相手として**兄弟姉妹同士が最初の「会話相手」**になるのです。
その結果、言葉を学ぶ過程で、**“2人の間だけで通じる音や表現”**が生まれるのは自然なことだといえます。
② 発音や言語の未熟さ
幼児期の子どもは、まだ語彙や発音が未発達です。双子同士でも、発音があいまいだったり、言葉の使い方が独特だったりすることがあります。
しかし、同じ発達段階にある相手には、それでも通じることが多く、親には理解できなくても双子同士は“意味”が共有できてしまうのです。
③ 模倣と補完
双子はお互いの行動を真似ることが非常に多く、一人が使った表現をもう一人が模倣しながら共有していくことで、その言語体系が徐々に育っていくとも言われています。
クリプトファジアの例:実際にはどんな感じ?
実際にクリプトファジアが起こると、次のようなやりとりが見られます。
- まるで“呪文”のような単語で2人だけで会話して笑い合っている
- 同じタイミングで全く同じジェスチャーをして、言葉なしで意思疎通
- 意味不明な歌のような節回しで、一緒に喋る(親には全く解読不能)
これは「言語」と呼ぶには不完全ですが、**2人にとっては“意味のあるコミュニケーション”**であり、立派な言語活動の一種ともいえるのです。
クリプトファジア=悪いこと?心配すべき?
この現象を初めて見る親御さんの中には、「うちの子、大丈夫かな?」「言葉の発達が遅れてる?」と心配される方もいるかもしれません。
しかし、クリプトファジア自体は“異常”ではありません。
多くの場合は成長とともに自然と消えていき、就学前には一般的な言葉でのコミュニケーションが主流になります。
ただし、以下の点に注意しておくと安心です:
✔ 対応のポイント:
- 家庭内で“正しい言葉”を繰り返し聞かせる
- 双子同士の会話ばかりでなく、親がしっかりと「本物の言葉」で話しかけることが大切です。
- 個別に話しかける時間を意識的に作る
- 双子はいつも一緒にいるため、個別に言語を育てる機会が少なくなりがちです。
- 保育園や幼稚園などの外部との接触も大切
- 双子以外の子どもや大人と関わることで、社会的な言語のルールを自然と学ぶことができます。
- 3歳を過ぎても単語が極端に少ない場合は相談を
- 心配な場合は、言語聴覚士や保健センターなどに相談してみてもよいでしょう。
言葉が消えても、絆は残る
クリプトファジアによる“秘密の言葉”は、多くの場合、3歳〜5歳ごろには自然に姿を消します。
それでも、双子同士の間には、「あのときの感覚」がしっかりと残っていて、特別な絆として関係性に影響を与え続けます。
大人になっても、
- 同時に同じ言葉を言い出す
- 相手の考えがなんとなくわかる
- 距離が離れていても似たタイミングで連絡をとる
といったように、言語を超えた“通じ合い”のような関係性が続くことも珍しくありません。
まとめ:クリプトファジアは双子だけの“言葉の冒険”
クリプトファジアは、
双子という特別な関係性の中で育まれる、2人だけの“言葉の世界”。
- 意味不明に見えても、そこには確かな“意味”がある
- 言葉の遅れではなく、発達過程のひとつ
- 時間が経てば自然に消えていく、かけがえのない記憶
もし、わが子たちがそんな“秘密の言葉”で話しているのを見かけたら、どうか温かく見守ってあげてください。
それは今だけの、特別な時間なのです。
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